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出来にばらつきがある:山月記・李陵 他九篇 [小説]


山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

  • 作者: 中島 敦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1994/07
  • メディア: 文庫



たまに読みたくなる古典シリーズ。
今回は「山月記・李陵 他九篇」。この「他九篇」がくせ者で、意外と出来にばらつきがあるように思えてしまった。

【目次】
李陵
弟子
名人伝
山月記
文字禍
悟浄出世
悟浄歎異
環礁
牛人
狼疾記
斗南先生


この中で一番おもしろかったのは、教科書でも有名な表題作「山月記」。人間の持つ奢りと後悔がうまく描かれている。
高学歴ワーキングプア」を読んだときにも本書を思い出したのだけど、高学歴を得ながら、プライドが邪魔して就職に失敗したワーキングプアの気持ちに通じるものがあるのではないだろうか。

他は、「文字禍」もよかった。ラストはイマイチながら、文字という人類きっての発明にとりつかれてしまった人間をうまく描いている。仕事が切羽詰まって、必死にWordと格闘していると、文字が全く意味をなさない線の組み合わせに見えて来ることは無いだろうか?そうした心情をうまく表せている作品だと思う。今も昔も追い詰められた人間が文字に対して抱く感情は変わらないのだと思える。

「李陵」で描かれている男の生き様や、「弟子」で描かれる自分ルールのしっかりした子路、「悟浄出世・悟浄歎異」で描かれる沙悟浄の悩みとそれを解決するための苦悩も、現代を生きる私が実感できる生々しい感覚を伴っている。本書には時代に関わらない良作が多く収録されている。

逆に、「狼疾記」は何を言いたいかがわかりにくく、心に響いてこない。「環礁」も時代や南の島の様子がありありと浮かんでくるすばらしいパートもあれば、やっつけ感を感じるピンとこない作品もある。
そういう点では、作品の質のばらつきも感じた本でもある。

「山月記」は今でも教科書に載っているのかどうかは知らないが、教科書を読む世代も、昔教科書を読んだ世代も、もう一回読み返してみる価値はある。
きっと新たな発見や、自分を見つめ直すきっかけになるのだと思う。

☆☆☆★(☆三つ半)

ちなみに、森見登美彦も「山月記」を元ネタに、自信過剰の京大生が鞍馬山の天狗になる話を書いている。
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-03-24


他のBlogの反応はこちら等。
http://market-of-book.seesaa.net/article/109197711.html
http://rusticana.seesaa.net/article/105169226.html
http://blog.goo.ne.jp/ego_dance/e/25880fcdaf088cd6efd8582756c93fe7
http://elwing.blog.so-net.ne.jp/2007-08-11

教科書の威力は絶大で、やっぱり「山月記」の知名度・言及が他を圧倒しています。
他の作品にもおもしろいものも多いので、「山月記」しか知らない人も、是非手に取ってみてほしい。



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コメント 2

hiro

初めまして。
リンクとトラックバックとリンクをありがとうございます。

山月記は教科書に載っているんですね。
私が使っていた教科書には載っていませんでした。
高校時代、先生に勧められて読みましたが、載っていなかったからこそ勧めたかったのかもしれません。

私は他の作品では弟子が好きです。
情に熱く、不器用な子路に好感を持ちます。
by hiro (2008-11-23 01:16) 

book-sk

>hiroさん
コメントありがとうございます。

教科書もいっぱいあるので、時代・学校によって異なるのでしょうが、私は山月記を読んだ記憶があります。
この中では一番おもしろかった作品だと思います。

「弟子」の子路も良いですよね。高校時代の漢文で論語が出る度に、子路の名前もよく出てくるのですが、こうした小説になっていると人物像がつかみやすくて好感が持てるようになりますね。
by book-sk (2008-11-24 10:57) 

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